神秘的で豊かな自然と魅力的な人たちに会いに来て

ぐるりんしもきた
青森県下北半島旅ガイド

力強い海の男が支える「寒立馬」

厳しい冬に耐える強い馬

下北半島の北東にある尻屋崎には、馬に会うために多くの人が訪れる。夏、馬たちは白亜の尻屋埼灯台の周りをのんびりと過ごしていて、愛くるしい。冬は寒さにじっと耐える姿が力強く、見るものを感動させる。東通村のシンボルとも言えるこの馬が、「寒立馬(かんだちめ)」だ。

寒立馬は、日本在来種の南部馬を祖先に持つと言われ、外来種との交配によって大きな体を持つよう改良された種だ。寒さと粗食に耐え、持久力が高い。かつては、農・漁業や、馬車を引く荷役など貴重な労働力として活躍した。

寒立馬

「寒立ち」とは、カモシカが冬季に山地の高いところで長時間雪中に立ちつくす様を表す言葉だ。冬、吹雪の中で馬がじっと耐えている様子が、「寒立ち」に似ているので、寒立馬。尻屋小中学校の校長先生が短歌の中でこの言葉を使った。まさにぴったりの表現だということで、定着している。

寒立馬は、一年中自然放牧されている。春から秋は尻屋崎周辺の広いエリアで暮らし、冬はアタカと呼ばれる牧草地に移動して越冬する。基本的には、自然のまま、手をかけない。ただ、寒立馬の体調管理や、出産の管理などの世話は必要だ。その仕事を担っているのが、尻屋牧野組合だ。

世話の形も、自然に過ごす馬ならでは

組合長の寺道和廣さんは、畜産の仕事を始めて30年以上。23歳の時から、牛と馬の飼育を行ってきた。東通村では多くの農家が馬を飼育し、市場に出荷していたが、需要が減って価格が低迷したため、廃業が相次いだ。1995年には9頭まで減少し、保護のために村の所有となった。寺道さんは村の所有となる直前まで寒立馬を所有していた、最後の個人所有者。そして、村の所有となってからも馬の世話をしている、寒立馬を知り尽くした男だ。

「寒立馬は、調教をしないで、好きなようにさせている。だからこその難しい部分というのはある。」と語る寺道さん。

寒立馬の世話をする寺道さん

寒立馬の世話をする中で最も大変なのは、やはり出産。乳の張りなどから出産時期を推定して備えるが、寒立馬は自然放牧されているため、常に間近で観察できるわけではない。さらに、出産場所の厩舎に移動させるのも一苦労だ。寒立馬を後ろから追い込んで移動させるが、思い通りに移動してくれるとは限らず、同じ場所をぐるぐる回って、逆方向に行ってしまうこともしばしばある。

寒立馬は、現在、25頭が飼育されている。もちろん、馬ごとに個性がある。

「この馬は牧柵の中に入りたがらないんだ。でも仔馬がいる時には、先に仔馬を柵に入れると入ってくれる。」と、1頭1頭の性格を寺道さんは把握している。

尻屋牧野組合組合長 寺道和廣さん

海に、陸に、動き回る

寺道さんは牛馬の世話だけでなく、漁業も行っている。

「生活としては漁業主体だ。普段は海の仕事が時間的には長い。」漁業をしながら牛や馬を育てるというのは尻屋地区で伝統的に受け継がれてきた仕事スタイルでもある。

馬は、現在のように車がない時代に、浜からフノリなどの海藻を運ぶために使う、漁業に欠かせないものだった。

寺道さんの漁は、イカ漁やタコ漁も行うが、メインはコンブ漁。尻屋地区のコンブ漁は「拾いコンブ」と呼ばれる方法だ。荒波によってちぎれ、浜に流されてきたコンブを集めて、天日干しして出荷する。

海から刈り取るのではなく、自然の恵みを海から分けてもらう漁法である。

海が凪ぎれば、沖に出る。陸に戻れば、牛や馬は生き物なので、毎日世話が待っている。寺道さんは、一人で何役もこなすのだ。

尻屋崎の寒立馬

自然の馬を理解し、
事故なくふれあってほしい

インタビューをしている間も、まさに寡黙な漁師という雰囲気の寺道さん。尻屋崎には、寒立馬に会いに多くの観光客が訪れるが、寺道さんのほうから話しかけるというようなことはほとんどない。ただ、観光で訪れる人々に伝えたい思いがあるという。

「東通村は寒立馬で売り出しているので、多くの人に馬とふれ合ってもらいたい。でも、寒立馬は自然な姿で暮らしていることを理解してもらいたい。普通の牧場の馬みたいに調教しているわけではないから、不用意に近づけば驚いて逃げたり、蹴られてしまうこともある。犬を連れてくる人がいるが、馬が驚くので本当に危ない。」

この寺道さんのメッセージは、当然、尻屋崎の看板にも書かれているが、誰しもそういった看板は見落としがちなもの。この場を借りて、改めて皆さんにお伝えしておく。

自由気ままに過ごす雰囲気が魅力の寒立馬。その生活は、実は寺道さんたちが支えている。

「わいど(自分たち)しかこの仕事はできない」と、誇りをもって世話をしている。

尻屋牧野組合は、縁の下の力持ち。この手によって支えられる寒立馬たちに、ぜひ多くの人に会いに来てほしい。

尻屋牧野組合組合長 寺道和廣さんの手のひら

Text : 園山和徳  Photograph : 佐々木信宏



【Profile】
寺道和廣さん
尻屋牧野組合 組合長
住所
青森県下北郡東通村大字砂子又字沢内5番地34
電話
東通村経営企画課
0175-27-2111